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東京地方裁判所 平成6年(ワ)17870号 判決 1997年5月12日

主文

一  被告は、原告らに対し、金一九〇五万円、並びに内金一五八一万円に対する平成五年一二月七日から、内金三二四万円に対する平成六年九月一二日から、各支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その九を被告、その余を原告らの各負担とする。

四  この判決は、原告ら勝訴部分に限り仮に執行することができる。

理由

【事実及び理由】

第一  請求

被告は、原告らに対し、金二一六九万円並びに内金一五八一万円に対する平成五年一二月七日から、内金四六八万円に対する平成六年九月一二日(訴状送達の日)から、内金一二〇万円に対する平成七年九月七日(訴え変更の申立書送達の日)から、各支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、原告らが、「原告らは、被告に対し、準問屋契約に基づき、指値を指定して自動車写真を送付したところ、被告は出版社との間で、指値ないし一部指値を下回った価格で各出版許諾契約を締結した。よって、原告らは被告に対し、<1>指値で出版許諾契約を締結した部分については指値の、<2>指値を下回った部分については指値と現実の出版許諾契約を締結した価格との差額の、各六〇パーセント(原告らの取得分)の出版許諾料の支払を求める」旨主張するのに対し、被告が指値の主張を争ったうえ、「被告も原告らと同種の出版許諾契約を締結しており、原告らにも未払部分がある」等と主張し、同部分との相殺を主張している事案である。

なお、原告はドイツ国籍、被告は日本国籍であるから、準拠法が問題となる余地がある。しかし、契約自由の原則が認められている両国の法体系に照らすと、当事者間の合意内容を確定することで足りるから、本件事案の下では準拠法の問題は格別の争点ではない。

一  争いのない事実等

1 原告らは、自動車の写真の撮影・製作を専門とする写真家であり、共同して著作物である自動車の写真を撮影・製作し、それらの写真の著作権を共有している者である。

2 被告は、写真通信、国内ニュース及び写真の取材を業とする有限会社である。

3 原告らは、昭和六三年三月二五日、被告に対し、左記の概要で、原告らが撮影・製作した自動車写真(以下、原告自動車写真という)について、被告が日本の出版社に対し、出版物により複製及び頒布(以下、出版という)することを許諾する(出版許諾契約の締結)ことを委託した(以下、本件契約という)。

(1) 被告は、自己の名で日本の出版社と原告自動車写真(送付の形式はカラー・スライド又はプリントによる)について、出版することを内容とする出版許諾契約を締結し、出版社に対し、出版許諾料を請求する。

(2) 被告は、原告らに対し、右出版許諾契約について報告する。

(3) 被告は、右許諾料の四割に当たる金額を出版許諾契約締結の手数料として同許諾料から控除して取得する。

(4) 被告は、原告らに対し、許諾料から、手数料を控除した許諾料の六割に当たる金額を引き渡す。

4 原告らは、平成二年頃まで、出版許諾料の価格について、被告と出版社との交渉の成行に任せていた。しかし、原告らは、同三年の初め頃から、被告に対し、送り状記載の原告自動車写真一組(前後左右から撮影した写真四枚一組)ごとに出版許諾料の価格を指定(指値)し、以後、同五年一〇月まで各送り状に価格を指定して原告自動車写真をカラー・スライド及び印画紙の形式で送付し続けた。

5 被告は、原告らに対し、同五年九月まで日本の出版社と締結した出版許諾契約について、<1>原告自動車写真の送り状の日付、<2>被写体の車種、<3>原告自動車写真が出版された出版物、<4>出版許諾料を記載した取引報告書を毎月送付し続けた。

6 原告らは、同五年一一月二二日被告到達の書面により、送り状目録1記載の原告自動車写真に関し、二週間の期間を定めて原告ら主張の出版許諾料二六三五万円の六割に当たる一五八一万円を支払うべきことを請求した。

二  争点

1 指値遵守義務

(一) 原告ら

本件契約は準問屋契約の一類型であり、原告らは、本件契約に基づいて出版許諾料を指定したのであるから、被告は、その指定価格を遵守し、国内の出版社と出版許諾契約を締結すべき義務がある。したがって、被告は原告らに対し、本件契約に基き、出版許諾契約が成立した原告自動車写真について、原告らが指定した指値の六〇パーセントを支払う義務がある。

(二) 被告

本件契約は卸売業に近い形態である。仮に準問屋契約であったとしても、成行売買もあるから、同事実から指値遵守義務が生じるものではない。

原告らの出版許諾契約の交渉は全て被告に任されており、その出版許諾料額の決定についても、原告らの事前承諾や指示を得ないで、被告の判断で行う約束であった。

ところが、原告らは、平成二年になって、値段の指定をしてきたが、被告はこれを承諾した事実はない。

2 未払額

(一) 原告ら

(1) 原告らは、被告に対し、平成五年一〇月まで、別紙送り状目録1及び2記載の原告自動車写真について、価格を指定して継続的に原告自動車写真を送付し続けたところ、被告は、国内の出版社と右送り状目録1、2記載の原告自動車写真について別紙写真掲載誌目録1、2記載の出版許諾契約を締結した。しかるに、被告は、原告らに対し、その出版許諾契約について報告せず、前者の許諾料二六三五万円の六割に当たる一五八一万円、後者の許諾料五四〇万円の六割に当たる三二四万円の各支払をしない。

(2) 被告は原告らに対し、同五年九月付取引報告書記載の出版許諾料の六割に当たる一四四万円の支払をしない。

(3) 被告は、原告らの写真については、一方的に値引した部分があり、その合計額は別紙「送り状指定価格と取引報告書記載価格の対照表」記載の差額を合計した一二〇万円である。

(4) よって、原告らは、被告に対し、本件契約に基づき、別紙写真掲載紙目録1、2記載の出版許諾料及び平成五年九月付取引報告書記載の出版許諾料を併せた三四一五万円の六割に当たる二〇四九万円と値引き分である一二〇万円の合計二一六九万円、並びに内金一五八一万円に対する支払催告期限の翌日である平成五年一二月七日から、内金四六八万円に対する本訴状の送達の日である同六年九月一二日から、内金一二〇万円に対する訴えの変更申立書の送達の日である同七年九月七日から、それぞれ支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(二) 被告

(1) 原告らが被告に対し、別紙送り状目録1、2記載の原告自動車写真を送付したことは否認する。

(2) 原告らは、平成二年になってから出版許諾料の価格を指定してきたが、被告は承諾したことはないし、原告らの指定する価格は販売不可能な金額であり、原告自動車写真を売却することはできなかったというのが実情である。原告らの主張する内容・金額で契約が成立したというのであれば、その金額を立証すべきである。

3 相殺

(一) 被告

(1) 被告も原告らとの間で、被告の送付する自動車写真について、本件契約と同趣旨の契約を締結したが、平成元年一二月から同五年八月までの売上総額は五七七五万五〇〇〇円であり、被告は原告らに対して六割の三四六五万三〇〇〇円の支払義務があるところ、三四五四万二〇〇〇円を支払ったから、未払額は一一万一〇〇〇円である。

(2) 被告と原告らは、同三年三月一七日、被告が著作権を有する自動車写真について、左記のとおり、原告らが国外の出版社との間で複製及び頒布を許諾できる旨の合意をした。

<1> 原告らは自己の名で日本以外の出版社と被告自動車写真について出版許諾契約を締結し、同出版社に対し、出版許諾料を請求する。

<2> 原告らは被告に対し、右出版許諾契約について報告する。

<3> 原告らは、右許諾料の四割に当たる金額を出版許諾契約締結の手数料として同許諾料から控除し取得する。

<4> 原告らは、被告に対し、右許諾料から、右手数料を控除した同許諾料の六割に当たる金額を引き渡す。

(3) 被告が原告らに販売を依頼して送付した写真のうち、原告らが売り上げた金額は二三九四万四〇〇〇円(乙第三号証の一ないし五〇の各一、二)であるから、原告らは被告に対し、その六割の一四三六万六四〇〇円を支払うべきである。ところが、原告らは、被告に対し、八一六万四二四〇円を支払ったのみで、残金六二〇万二一六〇円を支払わない。

よって、被告は右内金一一万一〇〇〇円と原告らの(1)の債権とを対当額で相殺する。

(二) 原告ら

原告らは被告主張の右受動債権一一万一〇〇〇円を本件訴訟で請求していないから、被告の相殺の主張は失当である。

第三  判断

一  事実経過等

争いのない事実等、《証拠略》を総合すると、次の事実が認められる。

1 原告らは、昭和六三年頃、日本国内において、自らが撮影した原告自動車写真(カラー・スライド)をマックス・プレス社を通じて出版社に販売していた。当時、原告らは、自動車写真業界においては、ほぼ世界の市場を独占する程の勢いがあり、原告らとの取引自体が被告の信用につながるものであった。そこで、被告は、同六三年三月下旬頃、原告らに対し、自動車写真をマックス・プレス社よりも高額(シリーズ物で七〇万円から八〇万円)で市場に出すことができる等として、原告らの独占的エージェントとして活動したいこと、作品に対する報酬の先払分として一万四八一一ドル(約二億五〇〇〇マルク)を支払う用意があることをファックスで申し入れた。原告らは、右提案を前向きに検討していたところ、被告は、同六三年三月二五日付で右取引内容を確認する書面を送付し、右金額を送金してきた。そこで、原告らは、被告との間で、大要、<1>原告らが送り状を添付して自動車写真を送付すること、<2>被告は取引報告書により許諾料の計算書を送付すること、<3>原告らの送付した自動車写真の総売上の六〇パーセントを原告ら、四〇パーセントを被告が取得する旨の本件契約を締結した。

2 原告らは、平成二年のはじめ頃まで、被告に対し、原告自動車写真の最終価格の交渉を一任していた。ところが、原告らは、被告から送付された取引報告書(被告の手数料込みの価格)に記載された精算金額が原告らの送付した原告自動車写真の枚数や市場価格に照らして少ないとの印象を抱くようになった。そこで、原告らは、不信感を抱き、日本国内の専門雑誌を取り寄せて原告らの送付した自動車写真の掲載状況を確認したところ、報告義務が履行されていない出版許諾契約が存在し、かつ、未精算の部分が相当数存在することが判明した。

3 そこで、原告らは、直ちに、被告に対し、右報告義務の不履行等を指摘して苦情を申し入れ、以後、<1>送り状に最低の掲載料を「円単位」で記載し、当該価格で雑誌社と売買交渉を行うこと、<2>雑誌社が価格の譲歩を要求してきた場合には原告らの了解をその都度得ること、<3>原告らの了解がない限り値引しないこと等を要求したところ、被告もこれを了解した。

4 右経過を辿り、被告は、同二年一月以降、原告らが送り状で指定した価格を遵守し、値引が必要な場合には、その都度、問い合わせてくるようになった。また、被告は、取引報告書にも従前より高額の掲載料を記載するようになった。

ところが、被告側は次第に右問い合わせもせず、送り状の価格よりも低価格を取引報告書に記載するようになり、原告らが差額を請求すると、漸くその都度、支払うという有様であった。加えて、被告は、同四年以降、売上の送金自体を遅滞するようになり、原告らが請求すると、「忘れていた」等と述べ、しぶしぶ支払う等していたが、その後、「お待ち下さい。後で支払います」等と言い逃れをし、遂には、原告らの問い合わせを無視し、同五年九月以降、原告らに売上を支払わず、取引報告書さえも送付しなくなった。

この間、原告らは、被告が販売した原告自動車写真の一覧表の交付を要求したり、原告ら指定価格と販売価格が一致している場合と指定価格よりも低額の場合とが混在している理由を照会したが、被告は何ら回答しなかった。

5 原告らは、同五年一〇月一九日付で被告に対し、既に送付済みの写真等の未払分を一覧表で明示して支払催促を行い、被告との取引を打ち切ること、法的手段も講じる意思があること等を表明した。

これに対し、被告は、支払可能な金額は総額一か月当たり一五〇万円から一六〇万円が限度である旨回答したため、原告らは、出版済みの写真等の支払ができないのは不可解であり、右支払条件では納得できないこと、送付した写真等の代金が精算されれば今後も取引可能であること等を回答した。

被告は、同五年一〇月二八日付書簡で、販売できなかった原告自動車写真についても時々送金していたこと、被告の可能な支払条件は、<1>頭金二〇〇万円、<2>今後の毎月の支払金額を一五〇万円とすること、<3>過去の未払分を分割払すること、<4>被告側も自動車写真を送付したいこと等を回答し、今後も協力関係を維持したい旨を表明した。

二  検討(争いのない事実等、右一認定の事実を前提)

1 出版許諾料の未払額と指値以下での売却について

(一) 契約の性質と指値の遵守

(1) 前記認定の事実によると、原告らと被告は、大要、<1>被告が自己の名で原告らの送付した自動車写真について、日本の出版社と出版許諾契約を締結し、出版社から出版許諾料の支払を受けること、<2>原告らは被告に対し、右許諾料の四割に当たる金額を手数料として支払うこと、<3>被告は原告らに対し、右許諾料の六割に当たる金額を交付する旨合意したことが認められるから、被告は自己の名をもって他人である原告らのために出版許諾契約を締結する旨の準問屋契約を締結したものと解するのが相当である。

したがって、被告は、委託者である原告らのために善良なる管理者の注意義務を尽くして第三者との間で出版許諾契約を締結する義務があるところ、前記のとおり、原告らと被告は、平成二年の初め頃、原告らの送付する自動車写真を、被告が原告らの指値に基づき、当該価格で出版社等に売却すること、右指値では売却困難な場合には事前に原告らの了解を得る旨合意したのであるから、被告は原告らの指定する指値を遵守し、国内の出版社と出版許諾契約を締結すべき義務があるというべきである。

(2) この点については、被告は、指値の拘束力を争っており、右金額の指定が原告らの希望価格にすぎなかったのではないかとの疑問が生じないわけではない。

しかしながら、第一に、原告らの被告宛の全送り状の末尾には「文書又は電話で購入の確認をして下さい。不同意の場合、資料を受領後一週間以内に送り返して下さい。お願いします」との記載があること、実際にも被告が指値で売却できない旨通知すると、原告側は原告自動車写真を返送するよう指示していたこと、被告らの平成二年二、三月分の原告ら宛取引報告書には原告自動車写真を返送した旨の記載があること等に照らすと、指値を下回る取引をする場合には、原則として原告らの承諾を要する旨の合意があったものと見るのが自然である。

第二に、原告らは、同二年の初め頃、原告自動車写真の送り状に指値を記載するようになったが、別表記載の「一シリーズ当たりの平均値」の推移のとおり、同二年一月四日に送付された同元年一二月の取引報告書以降、写真の一シリーズ当たりの月額売上平均値が一〇万円前後から三〇万円ないし五〇万円へと増額になったこと、別紙「送り状の指定価格と被告作成の取引報告書記載の価格の対照表」記載の同五年一月分から同五年九月分までの原告作成の送り状記載の指定価格と被告作成の取引報告書記載の成約価格とを対比すると、二〇回の取引中、一四回分については送り状の指定価格が遵守されていること、被告は現実の成約金額と原告ら指定の金額との差額分を自らの負担で穴埋めしていたこと等に照らすと、被告側は指値遵守義務に基づいて右対処をしたものと見るのが合理的である。

第三に、原告らは、被告との取引停止後、オリオン・プレスと取引をするようになったが、同社は、原告らが送り状を指示した価格で写真を売り込むように努力し、値引がやむを得ない場合には、事前に原告らに問い合わせるという取引形態を維持していることに照らすと、被告との本件契約についても、右と同一内容の取引が可能であって、現にこれを行ってきたと見るのが自然である。

よって、被告には、原告ら主張の本件契約に基づき、指値遵守義務があったものと認めるのが相当である。

(二) 未払債務額

(1)原告自動車写真の雑誌掲載事実

《証拠略》によると、<1>原告らは、被告に対し、平成五年一〇月まで、原告らの保有する別紙送り状目録1、2記載の原告自動車写真に価格を指定して送付したところ、これと同一性を有する自動車写真が日本国内の雑誌マガジンXに掲載されたこと、<2>マガジンXに掲載された右自動車写真については掲載頁中に「フォトアイエヌエス」と記載されていること、<3>しかるに別紙送り状目録1、2記載の自動車写真については被告の取引報告書には記載がないこと等が認められ、これらの事実に照らすと、被告は、国内の出版社との間で別紙送り状目録1、2記載の原告自動車写真に関し、出版許諾契約を締結しながら取引報告を行っていなかったものと認めるのが相当である。

(2) 指値に基づく出版許諾契約の成否

<1>前記認定のとおり、被告から原告らに対し、原告自動車写真をマックス・プレス社よりも高額(シリーズ物で七〇万円から八〇万円)で市場に出すことができる旨を申し入れたことにより両者の取引が始まったこと、<2>《証拠略》によると、被告は、遅くとも平成五年一一月頃までに、ドイツの写真家に対し、原告らの指定価額よりも高額の出版許諾料の支払約束を提案し、取引を勧誘したこと、<3>《証拠略》によると、同六年一〇月中旬の段階でも、アメリカ在住の自動車写真家宛の出版許諾契約の委託申込において、スクープ写真の相場が一五万円から七〇万円である旨を認めていたこと、<4>《証拠略》によると、原告らの送付した別紙送り状目録1、2記載の自動車写真の指定価格は一五万円から最高値のものでも六五万円であり、原告らの自動車写真の指値価格はいずれも被告の認める右<3>の相場価格の範囲内であること、<1>前記一1認定のとおり、原告らは自動車写真業界では実績のある写真家であり、原告らとの取引自体が被告の信用に直結する意味合いがあり、だからこそ被告も原告らとの取引を強く希望したのであるから、少なくとも右<3>程度の金額での取引は可能であったと考えられること等に照らすと、別紙送り状目録1、2記載の原告自動車写真については、格別の事情のない限り、被告は、同目録記載の各指定価格に基づき出版社(マガジンX)との間で出版許諾契約を締結し、その頃、出版社から当該許諾料を受領したものと推認するのが相当であるところ、右格別の事情を認めるに足りる的確な証拠はない。

(3) 右(1)、(2)によると、被告は、原告らに対し、本件契約に基づき、別紙送り状目録1記載の写真の許諾料合計二六三五万円の六割に当たる一五八一万円、別紙送り状目録2記載の許諾料五四〇万円の六割に当たる三二四万円の各支払義務があるというべきである。

しかしながら、原告ら主張の平成五年九月分取引報告書記載の原告自動車写真については、その内容の特定ができていないのみならず、出版物に掲載されたことを認めるに足りる証拠はないから、その出版許諾料の支払を求める請求は理由がない。

2 値引による損害

原告らは、被告が原告らの送付した自動車写真については一方的に値引した部分があり、その合計額は別紙「送り状指定価格と取引報告書記載価格の対照表」記載の差額を合計した一二〇万円である旨主張する。

確かに、前記説示の原、被告ら間の契約関係に照らすと、被告が原告らの自動車写真を指値よりも低額で売却した場合には指値遵守義務違反になることは明らかである。

しかし、指値を下回る出版許諾契約の締結は、被告にとっても手数料収入の減額になって著しく不利益であるから、被告が指値通りの金額で出版許諾契約を締結できたにもかかわらず、殊更、指値以下の金額で出版許諾契約を締結したというのは、格別の事情のない限り考え難いところ、本件全証拠によっても右格別の事情を認めることは困難である。

そうすると、被告が指値以下で売却した写真については、実際にも当該価格以上では出版許諾契約を締結できなかったと認めるのが相当である。

してみると、同事実から指値と値引価格との差額が損害であるとまではいえない(指値遵守義務違反があったとしても、自動車写真が指値で売却可能であったとの前提事実がない限り、現実の出版許諾契約の締結金額と指値価格との差額の六〇パーセントを損害であるということはできないところ、指値が適正な時価であり、指値で出版許諾契約を締結できたことについてはこれを認めるに足りる証拠はない)。

なお、別紙送り状目録1、2記載の原告自動車写真については「前記1(二)(2)の諸事情から指値での出版許諾契約の締結を推認した」ものであり、他方、「値引」に関する右結論は、「殊更、指値以下の金額で出版許諾契約を締結したというのは、格別の事情のない限り考え難い」ことから、時価の証明を要求したものであり、両者は矛盾するものではない。

3 相殺の主張について

原告らが請求している前記1の未払債権等は、前記のとおり被告が取引報告書にも記載せず、支払の対象として考えていなかったものであり、原告は被告主張の受動債権一一万一〇〇〇円を本件訴訟で請求していないから、被告主張の相殺は主張自体失当である。

三  結論

よって、原告らが被告に対し、本件契約に基づき、別紙写真掲載紙目録1、2記載の出版許諾料合計一九〇五万円、並びに内金一五八一万円に対する支払催告期限の経過後である平成五年一二月七日から、内金三二四万円に対する訴状送達の日であることが記録上明らかな同六年九月一二日から、各支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、主文のとおり判決する。

(裁判官 市村 弘)

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